- 編集後記 -

3年の星占い 2024-2026

手元に「よりぬき石井さん」というタイトルのワードファイルがある。2023年5月23日に書いたものだ。
私は企画書を書いたと思い込んでいたのだが、さっき開いてみたら「はじめに」という謎原稿だった。

恥ずかしいけど、全文公開してみる。

みなさんこんにちは。編集者の飛田と申します。長年石井ゆかりさんの本を担当させていただき、「3年の星占い」のシリーズは、今回で4回目を迎えます。

原稿整理の作業中、色を変えたり、ノートに書き抜いたりする原稿がかならずあります。それはたいてい占いではない文章です。物事に新しい光を当てたり、捉え直すきっかけになったり、自分にない視点を得られる文章がそこここにあるのです。

でも、12星座の星占いの本ですので、該当星座の人だけしか読めません。それはもったいない。

そこで「よりぬき石井さん」を作ろうと思いつきました。「よりぬきサザエさん」みたいに。

「今回の」3年の星占い「限定」の言葉集。売れるんでしょうか。

売り方がわからないなら、新しい売り方を試してみたいなあ。

完全受注生産ってやつですね。

ZINEみたいにやってみたいわ。直販限定で。少部数ならあれができる! あれってあれです、活版印刷。

文章はここで終わっている。編集者が「はじめに」を書くことなんてないのだけど、私が文章を選びたい(編者になりたい)と思っていたので、自分で「はじめに」を書かなくちゃ!って、妄想炸裂してウキウキしながらこんな文章を書いてしまったのですね。最後は独り言みたいになっている。ぎゃー!!(恥)

石井さんの「占いの本」が、単なる未来予想ではないことを伝えたくて、以上恥をさらした。

言葉によって、目の前の風景がまったく違う色合いに見えてくる。そんな体験を今回も数多くした。眼鏡をかけかえたみたいになるので、「もしかしたら、こういうことなのかな?」と目の前にある現実を捉え直せる。心の深いところに降りていくような読書体験は、現在だけでなく、過去さえも変えてくれる。

12冊校了してみんなもうへとへとなので(笑)この「よりぬき石井さん」企画は実現しないと思うけれど、ただの運勢を占う本と思わず、ご自身の星座以外もちらりと読んでいただけたらうれしい。実際、私自身は射手座なのに、今回、何度も読んで心をあたためたのは「蟹座」のなかの一節だった。

そんな編集者の心が伝わったのか、デザイナーの石松さんからコピー長めのレイアウト案が届いたときは、「わ!アレ(阪神のアレじゃなくて、抜き書きしておいた原稿)が使える!」と喜んだ。

表紙の右下に「アレ」を載せています。店頭でシュリンクされていても読めます!

「一枚の絵」から3年間の風景を読み解いていく、という斬新な構成は、石井さんから昨年の秋ごろいただいた。

4冊分の原稿が入ったところで、イラストレーターさんを探し始めたのだが、なかなか今回の原稿のイメージに合う作品に出会えなかった。水彩・細密画というのは決めていて、石松さんと候補を出し合い検討する毎日。2月が過ぎ3月も終わりごろになってきて、そろそろスケジュールがヤバイ!と、焦るけど、決められない。毎日毎日、書店や図書館に行って探し続けたところ、4月のはじめに中野真実さんの絵に出会った。見た瞬間、この人だっ!とすぐに石松さんと石井さんにご連絡。おふたりへのメールを見返すと、

蟹座の原稿に、過去の悲しみのなかから新しく美しいものが飛び出す、というのをペガサスにたとえています。悲しみのなかから美しいペガサスが飛び出しているイメージと合う人がいいな、と思い、やっと決められました。

と書いてあった。すっかり忘れていたけれども、このときもやはり蟹座の原稿が胸にあったのですね。

石井さんからは「すごくいい感じだと思います!」とのお返事がすぐにあり、石松さんは中野さんが描かれた「かがくのとも」の付録のポスターが気に入って手元に残してある、と満場一致。タイミングよく中野さんの個展が開かれていて、ドキドキしながらお手紙を書いて伺った。

晴れてお引き受けいただき、美しい絵、美しい装丁、美しい文章が調和した美しい本ができた。

カバーをめくると、カラー口絵が出現しますよ~

前回の「編集後記」に引いた平林奈緒美さんの言葉「そこそこいいものとすごくいいものの差は実は大きい」というのを、今回も何度も思い出しながら制作していた。

みなさんどうでしょう!「すごくいいもの」になったと思う。石井さんの原稿、中野さんの絵、石松さんのデザインのおかげである。五感に訴える本になったので、店頭で実際に見て、さわってもらえたらうれしい。

たくさんの方の力を借りて本が出来上がった。校正者さん、印刷所の営業担当さんと現場の職人さん、DTPオペレーターさん、紙屋さん、什器屋さん、読み合わせを手伝ってくれた友人。最後は本当に時間がなくて、中3息子と夫に図表の読み合わせバイトを頼んだ(バイト代はハーゲンダッツ2個)。

お世話になったみなさま、本当にありがとうございました!

2023年10月27日 編集者 飛田淳子