- 編集後記 -
新しい体を作る料理
実用書編集歴25年。
占い、ダイエット、家計、子育て、美容、家事、ファッション、ライフスタイル、建築、手紙、雑貨、植物、苔(!)。いろいろなジャンルの実用書を作ってきたけれど、料理本だけは経験がなかった。
2年半前、料理人のたかせさと美さんとのご縁をいただき、料理本にチャレンジしよう!と決めたのだけど、「売れる本になりそう」と思える企画にするまで少々時間がかかった。
「売れる」というのは、「欲しい」ということ。
自分や身近な友人が欲しいと思ってくれそうだ、という確信(結果はともかく企画時は)があってこそ、制作に多大な予算と労力をかけられる。
料理本の棚は、競争の激しいレッドオーシャン。おいしそうな、素敵ないい本がたくさん並んでいる。細分化が進むジャンルでもあり、私の入る余地がないなあと、棚前でおずおずしてしまう。
「この方向性でいこう!」と決めるヒントをくれたのが、小学生のときによく読んでいた母の料理本。
眺めているだけで楽しかった。実際に何品か作った。料理をするような子どもじゃなかったのに、この本を読んでいると不思議と作りたくなるのだ。
↑このチーズケーキは何度も作った。
決しておしゃれじゃないし、プロセス写真の一部が唐突にイラストになっているなど、デザインも統一感がないんだけど、子どもでも作れるわかりやすさがあった。
今回、改めて読み直して、ものすごく親切な本だということに気がついた。
「おお!これだ! プロセスをこまかく写真で見せて、親切な本にしよう。そんな本がほしい!」と、やっと確信が持てた。
制作当初は、具体的な症状に対して薬を処方してもらうようなやり方で、レシピを作ってもらった。
「肩こりと背中のこりがひどいです。午前中が特に調子が悪く、午後になるにつれて元気になってきます」
そんな実際の体調の悩みをお題に、レシピを出してもらっていたのだ。
お悩み対応レシピのほとんどは、今回使われなかったが、たかせさんの引き出しの多さを知ることができたし、「今すぐ作りたいレシピ」と「めんどうくさそうなレシピ」の差がわかってきた。
スタッフは、「あたたかい作品を作る人」にお願いしたかった。
公文美和さんは、若いころから憧れていた写真家さん。明るくて抜け感がある公文さんの写真が好きだった。大御所!というイメージでいたので緊張してお会いしたら、作品通り明るくて軽やかさがある人で、公文さんのおかげで、撮影がすごく楽しかった。
デザインは嶌村美里さんにお願いした。嶌村さんのデザインされたお料理の本は、やさしさとやわらかさがあり、本書のデザインも、押しつけがましさがない、読み手を立てたものにまとまった。
表紙を写真ではなく、太陽のイラストにしようというのは、早い段階から決めていた。本田さんにご依頼したのは、展示で見た絵の夕焼けの色味がすごくよかったから。
描いてもらった太陽は、すべてあたたかいパワーがあった。
太陽のラフ、特別公開!
ロケ地協力、うつわ協力、撮影補助ほか、多くの方に力を貸していただき、できあがったこの本。
……ここまで書いて、ふと、この編集後記に足りないのは、読者だな、と思った。
発売前に編集後記を書くのでしょうがないのだが、読者の方の存在があってはじめて、本が完成したと言えるのだろう。
たくさんの工夫を凝らしたけれど、その工夫が自己満足で終わってしまったら悲しい。
今回は特に、祈るような気持ちでいます。たかせさんのレシピが、本当においしくて、続けると体がラクになるので、「実際に作ってもらう」というところが、この本のゴールだからです。
どうか、本書のレシピを試していただけますように!
ほんとうに簡単で、おいしいです!!
2023年5月25日 編集者 飛田淳子