- 編集後記 -
愛のエネルギー家事
いつかの夏、沖縄の編集者中村亜紀子さんから、「神様の家事」という企画書が送られてきた。原稿も添付されている。ワードファイルを開いてみると……これは、すごくパワーのある原稿だ!と思った。
ごつごつした、オリジナルな表現でまとまりがあるとはいえないけれど、現代に生きる私たちにとって、大切なことが書かれている。
嘘がない、骨太で強い原稿。
それでいて、だれかを否定したりしていない、思いやりの心がある。
その後お会いした著者の加茂谷さんご本人も、嘘がないやさしくて強い人だった。
何より、使命感を持っていらした。
自分の大切な人や物や動植物に愛を伝えるやり方を、広くあまねく届けたいと、真摯であった。
この原稿をお預かりして、創業の第一弾のうちの1冊にしよう!と決めた。
初筆の、無名の著者である。同業者は心配した。でも大丈夫だという確信があった。
しかし、進行は思うようにいかない。
なぜならば……ちょっと……原稿もお話もスピリチュアルすぎたのだ!(笑)
本書の編集作業の肝は、「翻訳」だと気がついた。
内容の本質は変える必要はないし、変えたらもったいない。
でも「振動」とか「宇宙」とか「サイキック」といった言葉に、アレルギーがある人も多い。「スピな国」と「スピにちょいアレルギーがある国」をつなぐために、私は翻訳者になろうと、最適な表現方法を探る日々だった。
そして、抽象的で観念的であった原稿について、「こんなときどうすればいい?」「こんな悩みにあなたはどうこたえる?」「具体的に教えてほしい!」という実用要素がほしいと思った。だって、テーマは家事です。悩みは具体的なのだ。
何度も何度もお会いして、質問をぶつけてヒアリングした。加茂谷さんのスピ世界の言葉に、私が「?」という顔をして、大笑いすることもあった。たくさんの原稿をヒアリングから作り、また加茂谷さんにもどんどん追加原稿をいただいた。
5か月かけてようやく第一校ができ上った。
相棒の弊社社長樋口に見せた。「アヤシイところ」を具体的に指摘してくれたうえで「オリジナルな魅力がある」とコメントしてくれた。
中村さんにも読んでもらった。
「真紀さんの癒しのエネルギーが消えている」といった指摘を受けた。
その視点で改めて読んでみると、ほんとだ、私自身の「こうあるべき」性格が災いして厳しい原稿になってしまっていた。
必要のないものを買いすぎたとしても
「ああ、物に助けてもらったんだと思って前に進めばいい」
「できなかったことはどうでもいいから、できたことを数えましょう」
「常に愛のエネルギーが満ちていなくてもいい。無関心な日も冷たい日もあるかもしれない。でもそんな日があってもいいの」
といった、だれも否定しない著者の優しさが消えていて、「すべき感」が強い。翻訳者失格。出過ぎた真似をしたなと反省し、ゼロから編集し直した。構成も全部変えた。
アルビレオの草苅さんと小川さんのお二人も、翻訳者としての重要な役割をしてくださった。カバーはもちろん、本文のデザインに注目してほしい。忙しい生活者が負担なく読めるよう、文字の組み方から見出しの大きさまで、愛が行き届いている。
「こういうイラストでこんな表現をしたい!」という要望に、本田亮さんを推薦してくださったのも、アルビレオさんである。
本田さんの胸躍るイラストが、加茂谷さんの優しい世界をさらに具体的にしてくれた。
人の心を優先すれば、家がすーっと整っていく。
効率を追求せず、「自分の機嫌のよさ」や「気持ちの明るさ」を大切にすると、結果的に効率がよくなる。
これは、家事だけではなく仕事にも言えると思った。
見出しや項目、原稿。何をトルか何を残すか決めるとき、気持ちが明るくなるほうを選んだ。少しずつ自分の仕事から「すべき」の量が少なくなった。
最後にうれしかったこと。
加茂谷さんのお嬢様が、本の感想をくださった。
本、とてもよかった。初期の原稿とまったく違っていて、とても実用書だった。いつ何をどうやればいいのかが書いてあった。わかりやすかった。
もちろん確かに母の言葉なんだけど、ここに来て飛田さんの目指していたところがわかった。
初期原稿は、実用の部分とスピリチュアルな部分の切り替えが激しくて、スピーディーないったりきたり感があったけど、もうそれはないね。
ふむふむ、ほうほう、なるほど、という感じでサクサクほっこり読めた。
読んでいて、「なるほど。しかし私はこうやってしまってる。その場合はどうしたらいいのだろう?」って思うことが何回もあって、そのたびにその答えが次に書かれてるのが最高だった。
これじゃなきゃだめ!っていう書き方が一切ないから、読んでいて自分が否定されたと感じない。
だからこそ、本の中のアドバイスを素直にやってみようかなーって気になれる。
そこがすばらし。
あとは本当はきっとすごいスピリチュアルなこと言ってるんだけど、
でも言葉選びとゆるーい絵とワンクッション置くことによってかなりカモフラージュされてて、より幅広い層に受け入れられ易くなってるね。
この感想をいただいて、翻訳者として、及第点かなと思えた。
スピリチュアルな表現世界がダメなわけではなくて、大事なことをより多くの人に伝えるためには、親しみのある表現が必要だ。今回、言葉、デザイン、イラストが三位一体になって、その親しみのある表現を生みだせたのではないだろうか。
ひとえに、柔軟な著者と、本づくりをご一緒したすべての方のおかげである。
ありがとうございました!
2019年8月27日 飛田淳子